山本 | 大学教授 | 54才 |
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佐藤一郎 | 夫 | 32才 |
和子 | 妻 | 28才 |
和子 | 「いい結婚式だったわね。」 |
一郎 | 「うん、杉本くん、いいお嫁さんをもらってよかった。」 |
和子 | 「あら。」 |
一郎 | 「なんだい。」 |
和子 | 「あそこにいらっしゃる方、大学時代の恩師らしいの。 ごあいさつしてきていいかしら。」 |
一郎 | 「そりゃいいとも。ぼくもいっしょに行こう。」 |
* * * | |
和子 | 「山本先生、おひさしぶりでございます。」 |
山本 | 「はあ・・・。失礼ですが、どうもお名前が思い 出せなくて。」 |
和子 | 「慶応時代にお教えいただきました池田でございます。 卒業以来すっかりごぶさたいたしまして申しわけ ございません。」 |
山本 | 「ああ、池田さんでしたか。どうも失礼しました。 すっかりきれいになられたんでわかりません でしたよ。」 |
和子 | 「こちらは主人の佐藤でございます。」 |
一郎 | 「佐藤です。はじめまして。」 |
山本 | 「はじめまして。山本です。新郎の杉本さんの お父さんとは大学の同級生でしたね。 あなたは・・・。」 |
一郎 | 「杉本くんは私の後輩に当たります。」 |
和子 | 「先生、ずっとお元気でいらっしゃいますか。」 |
山本 | 「いや、昨年胃の手術をして以来、好きな酒も 飲めないんで元気が出ませんよ。あなたは今、 何かお仕事ですか。」 |
和子 | 「はあ、昨年まで出版社に勤めていたのですが、子供が できましたのでやめて、今は家庭におります。」 |
山本 | 「それは惜しいですな。佐藤さん、この池田さんは学生 時代なかなか熱心でしてね。よくむずかしい質問を して教師を困らせたもんですよ。わたしなんか、 答えられなくて赤面したこともありますしね。」 |
和子 | 「いえ、そんなこと。」 |
山本 | 「ま、暇があったらまたうちえ遊びに来てくださいよ。」 |
和子 | 「ありがとうございます。先生もどうぞおからだに お気をつけくださいませ。」 |
一郎 | 「じゃ、失礼いたします。」 |
* * * | |
和子 | 「先生、はじめわたしの名前を思い出せなくて困って らしたわね。」 |
一郎 | 「でも、あとでちゃんと思い出してくれたからいい じゃないか。ぼくなんかマス・プロ教育だから、 先生は学生の顔なんか覚えていないよ。ひどいのに なると、学生のほうでも講義を聞いた先生の顔を 覚えていないんだから。」 |
和子 | 「そうよ。大きな教室の講義ではそれもしかたない かもしれないけど、考えてみるとなんだか 寂しいことね」 |