蒲生 | 「あのう、なんていいますか、名前というものは個人を
識別するということがいちばん基本的な役割だと思う
んですけど、未開社会など例をみてまいりますと、
いろんな意味が含まれていると思うんです。
ま、その中で特徴的な事を拾い上げてみますと、まず
第一に名前というものは、それぞれの社会の特徴を
反映しているんじゃないかというようなことが言える
かと思います。」 |
大野 | 「社会の特徴と申しますと … 。」 |
蒲生 | 「ま、たとえばですね。あの、ある社会ですと、男と女
の名前ですね。男も女も同じような名前を付けるとか、
しかしまた、別の社会に行きますと、男と女はかなり
はっきり区分するとかですね。それから、あの、名字
といいますか、われわれのいう名字ですね、家の名前
といいますか、もういうものもある社会もありますし、
全然そういうものがない社会もあると思うんですね。」 |
大野 | 「ああ、そうですか。名字を持っていないわけ … 。」 |
蒲生 | 「そうですね、というのはやはり なんていいますか、家
とか何か集団ですね、そういうものの持っている権利
とか義務とかそういうものと何か関係があるんじゃな
いかと思うんですね。
ま、そんなようなことを考えますと、また、あのう、
こういうこともありますね。
生まれた順番で日本式に言いますと太郎、次郎、三郎
式のですね、ま、こういう出生の序列というものを
非常に尊重する社会、これもやはり、あの、年齢とか
年配の序列を非常に重要視している社会と関係してい
るんじゃないか … 。」 |
大野 | 「そういう事を大事にする社会ではそういう名前を付け
る … 。」 |
蒲生 | 「は、そういう事があるんじゃないかと思いますね。」 |
大野 | 「ああ、そうですか。」 |
蒲生 | 「ですから、そういう意味からいきまして、第一に社会
のそれぞれの特徴を反映していることが考えられると
いうことですね。それから、第二番目にもう一つ考え
ておかなければいけないことは、ま、いろいろ名付け
の習慣というのは、いろいろな民族、雑多ですけれど
もたとえば、あのう、自然から取るとかですね。」 |
大野 | 「自然から取るというと植物の名前なんか … 。」 |
蒲生 | 「ええ、あの、もう少し、なんていいますか、岡とか山
とか川とかですね。」 |
大野 | 「ああ、ああ、そうですか。といいますと、日本の名前
なんかもそれありますね … 。」 |
蒲生 | 「そのほか動物 … また、あの、なんていいますか、
自分の崇拝している、あるいは、心の中に秘めている
神様とか霊魂とかそういったものの名を取ってくる
とかですね。
あるいは、あの、先祖から語り伝えの中にあるモットー
ですね。たとえば、「わが一統は慈悲深くなければい
けない」というようなところから慈悲というような
言葉を付けてくるとか … 。」 |
大野 | 「それ、慈悲という名字をつけちゃうわけ … 。」 |
蒲生 | 「ええ、そういう名前ですね。」 |
大野 | 「名前ですか。」 |
蒲生 | 「名前もありますね。」 |
大野 | 「そうですか。」 |
蒲生 | 「名字もございますし、「恩恵」とかそういうのもある
と思いますけど。あるいは、あのう、歴史的な事実
ですね。あのう、たとえば、こういうのがあるんで
すね。エスキモーの中に、たとえば、あのう、エスキ
モーはもともと名字を持っていなかったわけですけど
も、ま、アメリカなりカナダの社会の中で住民登録の
必要からですね、名字というものを作る必要ができた
わけですね。その時にいろいろの付け方があるわけで
すけど、ナポレオンの話を聞きましてですね。ナポレ
オンという名字を付けて … 。」 |
大野 | 「ナポレオンが気に入ったというわけ … 。」 |
蒲生 | 「そういうわけですね。ナポレオンの英雄にあやかりたい
と思ったんでしょう。それからそのナポレオンがですね。
そのナポレオンという名前のエスキモーが、子供が生ま
れたわけですけども、その子供にまたナポレオンと付け
たわけですね。ですから「ナポレオン・ナポレオン」と
いう名前のエスキモーが今おりますけど … 。」 |
大野 | 「ああ、そうですか。」 |
蒲生 | 「ま、そういうような歴史的な記念とかですね。」 |
大野 | 「なるほど。」 |