Lesson 3

応用会話


大野        学習院大学教授        国語学
蒲生 正男 明治大学教授 社会学


蒲生 「あのう、なんていいますか、名前というものは個人識別するということがいちばん基本的な役割だと思う んですけど、未開社会など例をみてまいりますと、 いろんな意味が含まれていると思うんです。 ま、その中で特徴的な事を拾い上げてみますと、まず 第一に名前というものは、それぞれの社会の特徴を 反映しているんじゃないかというようなことが言える かと思います。」
大野 「社会の特徴と申しますと … 。」
蒲生 「ま、たとえばですね。あの、ある社会ですと、男と女 の名前ですね。男も女も同じような名前を付けるとか、 しかしまた、別の社会に行きますと、男と女はかなり はっきり区分するとかですね。それから、あの、名字 といいますか、われわれのいう名字ですね、家の名前 といいますか、もういうものもある社会もありますし、 全然そういうものがない社会もあると思うんですね。」
大野 「ああ、そうですか。名字を持っていないわけ … 。」
蒲生 「そうですね、というのはやはり なんていいますか、家 とか何か集団ですね、そういうものの持っている権利 とか義務とかそういうものと何か関係があるんじゃな いかと思うんですね。 ま、そんなようなことを考えますと、また、あのう、 こういうこともありますね。 生まれた順番で日本式に言いますと太郎次郎三郎 式のですね、ま、こういう出生序列というものを 非常に尊重する社会、これもやはり、あの、年齢とか 年配の序列を非常に重要視している社会と関係してい るんじゃないか … 。」
大野 「そういう事を大事にする社会ではそういう名前を付け る … 。」
蒲生 「は、そういう事があるんじゃないかと思いますね。」
大野 「ああ、そうですか。」
蒲生 「ですから、そういう意味からいきまして、第一に社会 のそれぞれの特徴を反映していることが考えられると いうことですね。それから、第二番目にもう一つ考え ておかなければいけないことは、ま、いろいろ名付け習慣というのは、いろいろな民族、雑多ですけれど もたとえば、あのう、自然から取るとかですね。」
大野 「自然から取るというと植物の名前なんか … 。」
蒲生 「ええ、あの、もう少し、なんていいますか、岡とか山 とか川とかですね。」
大野 「ああ、ああ、そうですか。といいますと、日本の名前 なんかもそれありますね … 。」
蒲生 「そのほか動物 … また、あの、なんていいますか、 自分の崇拝している、あるいは、心の中に秘めている 神様とか霊魂とかそういったものの名を取ってくる とかですね。 あるいは、あの、先祖から語り伝えの中にあるモットー ですね。たとえば、「わが一統慈悲深くなければい けない」というようなところから慈悲というような 言葉を付けてくるとか … 。」
大野 「それ、慈悲という名字をつけちゃうわけ … 。」
蒲生 「ええ、そういう名前ですね。」
大野 「名前ですか。」
蒲生 「名前もありますね。」
大野 「そうですか。」
蒲生 「名字もございますし、「恩恵」とかそういうのもある と思いますけど。あるいは、あのう、歴史的な事実 ですね。あのう、たとえば、こういうのがあるんで すね。エスキモーの中に、たとえば、あのう、エスキ モーはもともと名字を持っていなかったわけですけど も、ま、アメリカなりカナダの社会の中で住民登録の 必要からですね、名字というものを作る必要ができた わけですね。その時にいろいろの付け方があるわけで すけど、ナポレオンの話を聞きましてですね。ナポレ オンという名字を付けて … 。」
大野 「ナポレオンが気に入ったというわけ … 。」
蒲生 「そういうわけですね。ナポレオンの英雄にあやかりたい と思ったんでしょう。それからそのナポレオンがですね。 そのナポレオンという名前のエスキモーが、子供が生ま れたわけですけども、その子供にまたナポレオンと付け たわけですね。ですから「ナポレオン・ナポレオン」と いう名前のエスキモーが今おりますけど … 。」
大野 「ああ、そうですか。」
蒲生 「ま、そういうような歴史的な記念とかですね。」
大野なるほど。」