Lesson 11
「やりっぱなし」の息子へ
開けっぱなし、やりっぱなし、「ぱなし、ぱなし」に一日中 追いかけられたあげく、たまに「閉めて行ってね、片付け ておいてね」と大声をあげると、そのたびに「はい、はい」 と実にいい返事をしておきながら閉めたはずのふすまが三寸 ほど開いていたり、片付けたはずの物が右から左へ移動した だけだったり。それでさらに注意すると、「今ちょっとね、 後でね」とまたいい返事。ところが、その「後でね」が 一時間後なのやら、一日後なのやら、一向に分からない。 「おやすみなさい」とごきげんで引き上げた後の机の上の 有様といったらない (1) 。
自分で困れば悟るだろうと、一切注意も手伝いもしない ことにしてから、三日目になると、机の上は漫画本、おもちゃ、 野球のボールにそろばんと、雑多な物でいっぱい。朝になると、 「あれがない、これがない」と、時計を見い見い机の上の山を ひっくり返して必要な物をカバンに詰め込み、溢れて落ちた いろいろの品をヒョイ、ヒョイとまたいでさっと飛び出して 行く。
ある朝、六畳の部屋がプーンといいにおいがする。「おや」と 思って見回すと、たんすの小引出しが開けっぱなしになって いる。子供の学校では、ときどきハンカチ、ちり紙、つめの 検査がある。自分のハンカチは使い果たして、そこで母親の 外出用を無断で借用することになったのだろうが、香水の におうハンカチをまじめな顔をして、ズボンのポケットから 取り出す生徒に先生は一体どんな顔をなさっただろう。息子 よ (2) 、お父さんのやりっぱなしに男とは (3) こんなものかしらと あきれ、やがて諦めたお母さんだけど、君はまだ小学校の 四年生、今から奮起して整理、整頓に心がけてはくれまい か。
会話文
A: うちのおふくろ、うるさくてしょうがない (4) んだ。
B: どうしてだい。
A: すぐね、本を読みっぱなしにするなだの (5) 、 勉強をやりっぱなしにするなだの (5) って一日中大声をあげてんだ (6) から、 うるさいったらないんだ。
B: そんなら、うちのおふくろもおんなじさ。 僕がちゃんと閉めたはずだってったって (8) 「三寸も開いてた。する ことはちゃんとくれないかしら」なんてブツブツ言うんだからね。
A: ふうん。どこも同じってわけか。しかし、 自分の仕事をしいしい、どうしてああうまく人のあらを探せんのかね。
B: そりゃ、それもおふくろさん達の仕事の一つ だからだよ。先生と同じさ。
A: 先生って言えば、このあいだおかしかったぜ。
B: 何が。
A: 自分のハンカチを全部使っちゃったもんだから、 おふくろのを無断借用して学校へ行ったんだ。そしたら、先生が 「香水くさい、香水くさい」って言うから、ポケットからハンカチ 出して先生に見せたら、先生変な顔してたよ。
B: そりゃ、傑作だ。教室中、プーンといいにおい がしたろう。
A: うん。だけどさ、先生には叱られるし、 おふくろには叱られるし、ついてなかったよ。
= 留 意 語 句 =
声を上げる。
無断で借用する。
… な顔して …
あらを探す。
諦める。