Lesson 10

応用会話


吉田         会社員                 女性         20才ぐらい
大久保 会社員 男性 25才ぐらい


朝の仕事が始まる前のひととき

吉田 「何を読んでいらっしゃるんですか。面白そうに。」
大久保 「身上相談の欄ですよ。ほら。」
吉田 「どれどれ――孤独に悩む大学生――ってですね。なるほど、 この大学生は田舎から出て来て東京の大学に入ったが、 友達が出来ないというんですね。」
大久保 「東京の人はみんな忙しすぎるし、不親切だ。方言恥ずかしい ので、女性の友達も出来ない。趣味や娯楽のための金もない し、寂しくてたまらないと言うんです。」
吉田 「解答にはなんて書いてありますの。」
大久保 「人間というのは本来孤独なものだ。生まれる時も死ぬ時も 一人、自分の代わりに人にうどんを食べてもらったり、 薬を飲んでもらったりするわけにはいかない。孤独という ものを勉強するために東京へ出て来たと思いなさい、と 言うんです。」
吉田 「なかなか厳しいんですのね。」
大久保 「吉田さんだったらどおう答えますか。」
吉田 「そうですね。スポーツをしなさいとか、方言なんか忘れて、 積極的に友達をつくるように努力しなさいとか … … 。 大久保さんだったら … … 。」
大久保 「僕は友達をする前によくその人に聞かなければならない と思うんですよ。一口に孤独というけど、それは友達が できれば忘れられるものか、友達ができても忘れられない 性質の寂しさなのか。この新聞の解答は後の方の孤独 ですね。」
吉田 「なるほどね。で、その解答者は何ていう人ですの。」
大久保 「山本夏子っていう、ほら、この前『夫の浮気、妻の浮気』 という小説を書いた女流作家ですよ。小説はうまくない けど、身上相談の解答は面白いんです、僕はこの人の 解答を見るのを楽しみにしているんです。」
吉田 「そうですか。でも、身上相談を新聞に載せるなんていや ですね。本当に困っている人を救うためなら、その人に 直接返事を出せば済むんじゃありませんか。個人の悩み を紙上に暴露するなんて … … 。」
大久保 「それは、その当人には気の毒かもしれませんが、類似 した問題に悩んでいる読者には参考になるでしょうし、 そうでない人には読み物になりますよ。」
吉田 「そうでしょうか。とにかく、私は新聞になんか身上相談 を持ち込みたくありませんわ。」
大久保 「じゃ、僕にどうぞ。」
吉田 「はい、ありがとうございます。いずれ、その時には よろしくお願いします。」